ブルーアイランド先生の「音と絵の交叉点」第28回

ブルー・アイランド先生の音と絵の交叉点 28
絵と文 青島 広志
ジャン・フィリップ・ラモーの
「一眼巨人」
オディロン・ルドンの
「一眼巨人」
 ギリシア神話は、西洋の芸術に恰好の素材を提供している。美ならずとも醜の表現にも用いられているのだ。前者がアポロンやヴィーナス、後者がメドゥーサやここで紹介するキクロプス(一眼巨人)である。
 キクロプスは創世期にガイア(大地)とウラノス(天空)の間に生まれた兄弟たちで、父から嫌われてタルタロス(地底)に閉じ込められた。結果的にゼウスに救い出されて、彼の武器である雷電を製造することになり、常通は鍛冶の神へパイストスの工房に勤めている。しかし海神ポセイドンの息子にも一眼巨人がいて、名をポリュフェーモスと言う。
 彼は食人癖があり、後にオデュッセウスに退治されて盲目になってしまうが、元々はそれ程性悪でもなく、海の妖精ニンフガラティアに一目惚れして恋唄をがなり立てていた。しかし彼女が美少年のアキスを恋したのを知って、嫉妬のあまり岩を投げつけて恋かたきを殺してしまう。この神話に基づく絵画はラファエロの壁画にもあるが、最も有名なのはオディロン・ルドン(1840〜1916)の油彩であろう。始めは木炭画や版画を製作していたが、60歳以降は色彩画に目を開き、幻想的な花々や少女を描いた。神話画も多く、「キクロプス」(1898頃)はその一枚である。岩かげに眠るガラティアをそっと覗き見る巨人の顔に始めは驚かされるが、その内オタマジャクシにも見え、滑稽な中にもペーソスが感じられ、何よりその七宝しっぽうのような色彩の乱舞が心に残る。
 これに対し、同じフランス人の、しかしバロック時代の作曲家ジャン・フィリップ・ラモー(1683〜1764)のクラヴサン第3組曲(1731刊)に含まれるロンドー「一眼巨人」がある。同時代のクープランと共に、奇妙な題名の小品が並んでいて、後のロッシーニやサティの先駆的な作品ということが出来る。ニ短調で書かれたこの小品は、下降する音階を用いた主題が繰り返される間に、トッカータとも呼ぶべき両手による交互の打鍵が、楽譜上では予測出来ない新しい旋律線を生み、演奏効果も上々だ。後代には強弱を考えに入れてピアノ曲としても演奏されているが、跳躍が難かしいチェンバロでは、より難易度が高い。この部分の曲想から考えると、クープランの「トントン木槌」との類似もあって、このキクロプスはガラティアを恋した巨人ではなく、金床かなとこを金槌で叩いている鍛冶屋ではないかと推測されるのだが、果たしてどうなのか?
青島 広志 1955年東京生。作曲・ピアノ・指揮・解説・執筆・少女漫画研究など多くの分野で活動。東京藝術大学講師を41年務め、多くの声楽家を育てる。日本作曲家協議会・日本現代音楽協会・東京室内歌劇場会員。著書・出版譜多数。