ブルーアイランド先生の「音と絵の交叉点」第27回

ブルー・アイランド先生の音と絵の交叉点 27
絵と文 青島 広志
アンリ・ルソーの
「フットボールをする人々」
フランシス・プーランクの
「フルート・ソナタ」
 20世紀初頭のパリは、音楽・美術・文学・舞踊といった各芸術分野が一斉に花開き、この世の春とでも言わんばかりの文化都市となり、日本でも「洋行」と言えば必ずパリを指すのであった。音楽と美術では印象派とそれに続く新古典派が台頭し、近代都市の享楽的な生活を題材とした多くの作品が生まれた。
 美術では、すでに印象派がサロンやアカデミズムに背を向けた自由な活動をしていたが、その陰で、全く人々の話題にものぼらずに税関を正業としつつ描いていた存在がアンリ・ルソー(1844〜1910)である。正規の美術教育を全く受けず、「日曜画家」の呼称そのままに多くの油彩画を生み出し続けた。勿論、人物のデッサンは不正確だし、対象物の把握も不完全である。遠近法も知らないから全てを克明に描く。ただ時間はあったので、画面の仕上げは完全である。美術史を俯瞰すれば中世のテンペラ画に近いかも知れないが、そこには他の全ての画家たちが抱いていた「神の目」が欠落している。ヨーロッパでも東欧などでは民衆画が描かれていたに違いないのだが、彼が居なければそれらも世に知られることはなかっただろう。「フットボールをする人々」(1908)は、都市部の裕福な男たちが流行のスポーツに興じている一こまで、珍らしく一点透視法を用いているが、その人物は類型的で、どれも同一人物に見え、胴長で、手の平の付き方も奇妙である。個性と言えばこれ以上の個性は望めないだろう。
 パリ国立音楽院出身で「フランス6人組」の代表者だった才人フランシス・プーランク(1899〜1963)をここに並列させるのは、多くの人が首をひねるだろう。「小交響曲シンフォニエッタ」歌劇「ティレジアスの乳房」などの大作から映画音楽「アメリカへの航海」通俗曲すれすれの「E.ピアフを讃えて」まで多くの作品を、苦渋の影ひとつもなく屈託なく書いて行くのは、全くってプロである。ただその明朗さがルソーとの共通点と見せるのではないか。晩年に書かれた三作の管楽器用ソナタの内で、とくに「フルート・ソナタ」(1962)がそうだ。まるで20世紀に現われたモーツァルトではないか! もっとも、中間楽章の美しいセンチメンタリズムを識らない訳ではない。それは画家の「蛇使いの女」などと等しく、芸術家の夜の顔だと思っておこう。20世紀において、稚気あふれる明朗な芸術作品は否定される傾向にあったが、この二人はその意味で、遠く21世紀の創造者のあり方にも、暖かな光を投げかけている。
青島 広志 1955年東京生。作曲・ピアノ・指揮・解説・執筆・少女漫画研究など多くの分野で活動。東京藝術大学講師を41年務め、多くの声楽家を育てる。日本作曲家協議会・日本現代音楽協会・東京室内歌劇場会員。著書・出版譜多数。