ベルンハルト・クリストフ・ブライトコプフ(1695-1777)が1719年、ライプツィヒに設立した印刷所をその出発点とする、現存する会社では世界最古の楽譜出版社。1725年以降、聖書や讃美歌集を中心に出版業に進出していきました。創業者の息子、ヨハン・ゴットロープ・イマヌエル(1719-94)が1754-55年に考案した細分活字印刷法は楽譜出版に革新をもたらし、テレマンをはじめとする多くの有力作曲家の楽譜を取り扱うようになります。18世紀半ばに刊行されたブライトコプフ社の主題付きカタログは音楽史上の重要な資料であるとともに、オーケストラ楽譜における同社の圧倒的なシェアの基礎となりました。1795年、イマヌエルの息子たちに乞われて経営に加わったゴトフリート・クリストフ・ヘルテル(1763-1827)は芸術、経営に明るく、先見の明がある逸材でした。彼はやがてブライトコプフ社の相続人に指名され、同社はブライトコプフ・ウント・ヘルテル社[以下もブライトコプフ社と略記]として発展していきます。コンスタンツェ（モーツァルト未亡人）、ベートーヴェンなどとの契約も彼の功績です。そうした個別の作曲家、作品の獲得にもまして重要な事業としては、19世紀半ばから20世紀初頭のかけての、大作曲家たちの作品全集の刊行でしょう。バッハ、モーツァルト、ベートーヴェン、メンデルスゾーン、シューベルト、ベルリオーズ、リスト、ハイドン、ワーグナーなどが刊行されました。これらの、いわゆる旧全集がある時期まで規範と見なされ、現代のレパートリーにも大きな影響を及ぼしてきました。

第一次世界大戦と戦後の経済危機によって経営環境は一変し、この危機を乗り切るために大作曲家の自筆譜を含む特に貴重な手稿譜が売却されました。また、1926-28年に刊行したブラームス全集全26巻（旧全集）が好評を博したことも大きな助けとなりました。とはいえ、第2次世界大戦中のライプツィヒ空襲（1943年12月）で出版部門は被災し、多くの貴重な手稿譜楽譜や歴史的資料が焼失しました。第二次大戦後はヴィースバーデンに新たに設立した西ドイツのブライトコプフ社と、東ドイツ政府に接収・改組された、人民企業ブライトコプフ・ウント・ヘルテル、ライプツィヒに分かれて併存することになります。1991年に旧東独のブライトコプフがヴィースバーデンのブライトコプフの傘下に収まることで再統一され、今日に至ります。

現在、ブライトコプフ社で進行中の全集はメンデルスゾーンとシベリウスで、彼らの作品（全集既刊分）に関しては第一に当たるべきエディションといっていいでしょう。オーケストラ楽譜のエキスパートであり、ヘンレなど他社の校訂版に対応するオーケストラ楽譜の製作・販売も手掛けていることも注目されるでしょう。2017年、ニック・プフェファーコルン氏が社長に就任し、ブライトコプフ社の代表権がヘルテル家から離れました。自らも音楽家で楽譜校訂も手掛けていた新社長によって、忘れられていた作曲家たちの発掘などさまざまな新機軸が進行中です。