近年、ＣＤや復刻版楽譜が相次いでリリースされているフランツ・シュミット(1874-1939)ですが、2021年の東京では交響曲第４番（読売日本交響楽団、６月）、同第２番（ＮＨＫ交響楽団、11月予定）、と代表的な大作の演奏が相次いで行われます。

ポジョニ（現在のブラチスラバ）でハンガリー語を話すドイツ系家族に生まれたシュミットは、幼少期からピアノと音楽理論を学び、神童として知られていました。1888年にウィーンに移り、1890年から楽友協会音楽院でチェロと音楽理論を学び、1896年にチェロ奏者としてウィーン宮廷歌劇場管弦楽団（およびウィーン・フィル）に入団します。1914年まで（ウィーン・フィルは11年まで）在籍しますが、その期間の大半はグスタフ・マーラーが総監督を務めた時期に重なります。1901年から音楽院でチェロを教えはじめ、やがてピアノ、対位法、作曲の教授も務めます。少年期から作曲を続けてきたシュミットですが、1900年にベートーヴェン賞を受賞した交響曲第１番が出世作と言えるでしょう。1906年に完成し、1914年にようやく初演が行われた歌劇「ノートルダム」に関して、1920年代初めまで盛んに上演され、その後忘れられた、といった記述も見受けられるようですが、実際にはウィーンではときおり上演が見られ、第２次大戦後から1955年までの間に23回、1975年から80年の間に23回上演されています。

長い間、もっぱら「ノートルダム」の管弦楽曲――甘美な「間奏曲」とハンガリーあるいはジプシー風の「謝肉祭の音楽」――のみで知られていたので、ブラームス、レーガーの流れを汲む保守的な作曲家として片づけられることの多かったシュミットですが、実際にはＲ・シュトラウス、ヒンデミット、初期のシェーンベルクの影響も窺える多彩な表情が見られます。バッハとそれ以前の古風な様式と近代的な響きが同居するオラトリオ「七つの封印の書」（ヨハネ黙示録による）は、自らの音楽作品の集大成を目指した作曲者の企図に違わぬ名曲と言えるでしょう。豊饒なオーケストラの響きが見事な交響曲第２番は、マーラーがサンカンに演奏される今日、改めて脚光を浴びているようです。ときおりラヴェルやヒンデミットを連想させつつも、シリアスな雰囲気が貫かれた交響曲第４番は、早逝した長女エンマへのレクィエムであるとともに、ドイツ＝オーストリア・ロマン派交響曲の掉尾を飾る記念碑的な作品と言えるのでないでしょうか。その他、室内楽曲（パウル・ヴィトゲンシュタインのために書かれた左手ピアノを含む作品はユニーク）、オルガン作品なども魅力的と言えるでしょう。