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ブルー・アイランド先生の音と絵の交叉点 23
絵と文 青島 広志
パオロ・ウッチェッロの「聖ゲオルギウスと悪龍」
アンダーソン・ギルマン「ウォータールーの戦い」
 初期ルネサンスに居並ぶ美術家の中で、好みという訳ではないが、どうにも気になる愛すべき画家がいる。ウッチェッロ(1397〜1475)である。よくもまあこれ程下手なのに、やって行けたものだと感心する位だ。同年代のマザッチョ(1401〜28)やフラ・アンジェリコ(1380頃〜1455)らと比べれば、その下手さ加減が判るだろう。
 「芸術家列伝」の著者ヴァザーリ(1511〜74)が書いた評伝では、「当時新しい技法であった遠近法に夢中になる余り、人間のデッサンをおろそかにした」からだそうだが、遠近法を駆使する筈の風景においても、遠くの物体を単に小さく描くだけで現実味がない。これは一点消失法と呼ばれる線的遠近法のみを用いているからで、実際の見え方である空気遠近法(遠くの物体は青く霞んで見える)を併用しないからである。ウッチェッロがこの技法を知らなかったのかと言えば、数少ない作品の中で二点残る「聖ゲオルギウスと悪龍」の一点(龍が既に傷付いている方)の中央消失点辺りの遠景の山は、遠いほど青味がかっている。しかし龍の巣である左側の洞穴は類型的で書き割りのようだし、近景の地面に生えた草地も公園の生垣いけがきのように区画されている。 つまり線的遠近法の為に描いているのが明白である。そして何よりも二人の主要人物に生気が感じられず、人形のようなのだ。それに比べて二匹の動物が立体的に描かれているのは、作者が動物好きだった説を裏付けている。
 人形芝居のような音楽と言えば、ハイドンのオペラや「ハーリ・ヤーノシュ」(コダーイ作曲)などが思い出されるが、ここではアンダーソンの「ウォータールーの戦い」を挙げたい。全音のピアノピースにも入っている、古くから子供の発表会の定番である。筆者も小学三年生で弾いた憶えがあるし、わが師の林 光もそのように話していた―――
 ということは、1930年代に既に日本に入っていた曲である。謂ゆる描写音楽で、情景が楽譜に書き込まれているから理解し易いことこの上ない。しかしあまりに表現が単純で―――大砲の音などはGの音をオクターヴで弾くだけ、使っている和音も古典的で全く新味がない等、感情移入が出来ないのである。ただ最後の追悼の部分の冒頭が始めと同じなのは意図しているのだろうか? 恐らく偶然であろう。
 そしてこの作者は謎につつまれている。アンダーソン・ギルマン(1881〜1971)という女性と記されているが、その生没年は新しすぎやしないか。
青島 広志 1955年東京生。作曲・ピアノ・指揮・解説・執筆・少女漫画研究など多くの分野で活動。東京藝術大学講師を41年務め、多くの声楽家を育てる。日本作曲家協議会・日本現代音楽協会・東京室内歌劇場会員。著書・出版譜多数。