ブルー・アイランド先生の音と絵の交叉点 21
アンリ・ルソーの「戦争」と
セルゲイ・プロコフィエフの「古典交響曲」
セルゲイ・プロコフィエフの「古典交響曲」


不思議なのは彼の場合、全く技術が進歩しないことである。普通は同じ作業を続けている内に新しい技法を採り入れて行くものなのだが、人物のデッサン、遠近法などに全く興味を示していない。そして色彩は常に明るく画面の隅々まで描き残しがない、ということは中世の宗教画のようでもあるし、職人の作った民芸品のようでもある。ルソーが第一世代だとすれば、次の世代では敢えて素朴派たらんとする専門画家が現われて来るのだ。
一方、セルゲイ・セルゲヴィチ・プロコフィエフ(1891〜1953)を素朴派に分類する訳ではない。極めて現代的な作曲法から出発しているからだ。しかし亡命を経て1933年に帰国してからは、ソ連の政策に合った明快で健康的な作風を選んだのであり、つまりは素朴派としての顔を見せたということになる。そして案外気に入っていたのではないだろうか。「古典交響曲」(1917)は早い時代にそれを示した好例だが、突然の遠隔調への転調はパッチワークのようで、ルソーの切り貼りしたようなモデリングと似ている。ここではやや内容が異質だが、日曜画家時代に描かれた「戦争」(1894)を取り上げた。
青島 広志 1955年東京生。作曲・ピアノ・指揮・解説・執筆・少女漫画研究など多くの分野で活動。東京藝術大学講師を41年務め、多くの声楽家を育てる。日本作曲家協議会・日本現代音楽協会・東京室内歌劇場会員。著書・出版譜多数。