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ブルー・アイランド先生の音と絵の交叉点 19
絵と文 青島 広志
ガブリエル・フォーレのお人形ドリー
ピエール・オーギュスト・ルノワールの「舟遊びをする人々」
 連弾には、あい反した思い出がある。幼稚園の頃は、そこの先生だった関よし子先生にピアノを習ったが、バイエル教則本の始めの連弾が大好きだった。自分の弾いている単純な音楽が豪華に変わるのである。そして「スワニー河」と「ユーモレスク」を合体させた編曲の驚きと言ったら! しかしこれ以降、一・二の例外を除いては連弾の相手を見つけられずに少年時代を過ごした。
 十八歳で東京藝大に入学すると、同級の作曲科生たちが連弾曲を持ち寄って、空いた時間に連弾をするようになった。ピアノ科の力を持つ者ばかりである。しかも持って来る楽譜は見たことも聞いたこともないフランスの曲ばかり‥‥「小組曲」「マ・メール・ロア」は難しいから、フォーレ(1845〜1924)の「お人形ドリー」がいいだろう、と促されて弾いたが、第一曲の「子守唄」はまだしも、それ以外は捕え難い曲ばかり。宙に浮いたような曲想で、相手がどう出て来るのか予測がつかない。池内いけのうち友次郎ともじろう門下に居るのだからと履修した仏語のニュアンスと全く同じだった。 それ以降、筆者は全くフランスに興味を失ってしまった。
 フランス美術もこれと同様である。真の始まりと言われ、日本人なら誰でも好きだと言う印象派にも、下手な絵だと思うばかりで、ひたすらデッサンや遠近法を追い求めたルネッサンス美術ばかり眺めていた。精密なリアリズムが好きだったのだと思う。愛好していた少女漫画も、コメディよりもシリアスな内容ばかり読んでいたのだから。印象派でも特に後期は大嫌いで、ルノワール(1841〜1919)はその筆頭だった。特に後期のディフォルメが激しい裸婦や、筆のタッチを活かした薄塗りの作品は、画家の風上にもおけぬと、一人怒っていたのである。家庭的な主題が多かったことも理由の一つだったのかも知れない。
 実は昭和30年代の子供は汚く、筆者も含めて殆んどが醜くかったのだ。恐らくその反動が表面的な美しさに走ったのだと思うが、何と平成期に入って、自らが児童合唱団を持たされるようになると、これが可愛い子ばかりなのである。するとほんの少しだけルノアールの絵が好きになり、その存在理由も納得出来るようになった。そして同じ世界観を持つフォーレの連弾曲も‥‥となれば目出たし、なのだが、こちらは駄目でここでは最も可愛い少女の絵と、これだけは何とか弾ける第一曲目を組み合わせることにして、ひらにお許し願いたい。
青島 広志 1955年東京生。作曲・ピアノ・指揮・解説・執筆・少女漫画研究など多くの分野で活動。東京藝術大学講師を42年務め、多くの声楽家を育てる。日本作曲家協議会・日本現代音楽協会・東京室内歌劇場会員。著書・出版譜多数。